日本酒(清酒)

日本酒は特異な醸造酒であり、日本の代表的な食品の一つである。

醸造酒にしては高いアルコールを生産することができ、
仕込み初期が液体発酵とは言い難い半固体発酵の発酵形態をとり、
発酵食品について勉強をしたものであれば聞いたことのある日本の並行複発酵の代表格である。

他の日本で生産される代表的な並行複発酵の食品は焼酎(泡盛)、甕酢(壺酢)、(ウイスキー)等である。
※ウイスキーは原料液を煮沸をしないため並行複発酵ともいえるかもしれないため。

分類

作り方による分類方法

  • 特定名称酒
  • それ以外

特定名称酒の中に

  • 大吟醸
  • 純米大吟醸
  • 吟醸
  • 純米吟醸
  • 特別純米酒
  • 特別本醸造酒
  • 純米酒
  • 本醸造

といった感じ。

わかりやすく説明すると米と米麹のみだと純米酒、米の削り加減で吟醸、大吟醸。
特別純米酒や特別本醸造は精米歩合60%以下または特別な製造方法とある。
本醸造はそれ以外の特定名称酒である。

詳しくは日本酒造組合中央公式を参照してほしい。

その他の分類

  • にごり
  • 発泡

などのさまざまあるが代表的なのをピックアップしてある日本酒造組合中央公式を参照してほしい。

製造方法(簡易的、一般的)

  • 蒸米に種麹を接種し、米麹を作る。
  • 蒸米、米麹、水、酵母、(乳酸)で酒母を作る。
  • 三段(四段)仕込みにより徐々に容量を増やしながら発酵させていく。
  • 出来た醪(もろみ)を搾り、澱引き、ろ過をする。
  • 火入れ
  • 割水
  • 火入れ

製造方法(詳細)

日本酒製造のすべてを解説したいところではあるが、重複や文章が冗長になることを踏まえ、大吟醸を主に記載していき、ほかの物のも適度に解説していく。

原料の選定

「山田錦」や「五百万石」が代表的な酒造好適米が適している。大粒で心白が大きく、低タンパク質なものが推奨される。米麹用と仕込み用の米を使い分けることもあるそうだ。

軟水で、鉄やマンガンを含まないこと。

  • 酵母

作りたい酒質、仕込み方によって適切に使い分けをする必要がある。
詳細は下部に記載する。

他にも種麹の選定や醸造アルコールの選定などあるだろうが代表的なものだけ記載する。

精米

精米歩合つまりはどのくらい精米したかの数値を作りたい酒質によって削り分ける必要がある。
基本的には削れば炭水化物の割合が増していくと考えてもらって構わない。
特定名称酒は70%、60%、50%を区切りにしている。ごくまれに20%以下のものもあるそうだ。


ちなみに普段食している白米は90%以上である。

精米歩合(%)=精米後重量/玄米重量×100

で計算する。

注意すべき点はひび割れを防止するために時間をかけて削る必要があることだ。

製麹

精米した米を水に浸漬し、蒸したのち、種麹を接種する。

一般的に種麹の調達は業者に任せる。作りたい酒質に合わせて発注する必要がある。
混合して使っているところもあるらしい。

蒸米を広げ、種麹をふるい等に入れ、振りかけて接種する。
熱の過上昇や結露水の管理等を行う。

大吟醸クラスは内部に麹菌の菌糸が侵入してはいるものの、表面にはあまり菌糸がない状態が好まれるようだ。次の工程でゆっくりとデンプンを糖に変換させるためだろう。

一般酒用は内部及び外部にまんべんなく菌糸が回っているものがふさわしい。

悪いものは表面のみや水分過多、菌糸なしなどがある。

酵母の選定

吟醸香が多い方がいいのか、否か。仕込みを発酵の時間は?発酵温度は?赤くしたい?海外輸出はする?硫黄系香気成分は低生産がいい?などによって使用すべき酵母が変わってくる。

ちなみに日本酒の発酵における泡の有無は品質に影響がそこまでないそうなので、生産効率を考えたら泡なしをメインとすることになるだろう。泡なしについて興味がある人はAwa1タンパク質やfroth flotation法について調べるとよいだろう。

現在、販売中の代表的なきょうかい酵母は日本醸造協会のきょうかい酵母を確認してほしい。番号の末尾が01は泡なし酵母である。詳しく知りたい、または購入したいとなったら日本醸造協会のきょうかい酵母をチェックだ!購入したいとなったら免許もね!

※赤くしたいならこの子しか現在(2024/12/7)は販売はされていない。
このような特殊条件でなければ選択肢はきちんとたくさんあるから吟味しなくてはならない。

きょうかい酵母の他にも酒蔵独自の菌はいるだろうし、東京農業大学が積極的に行っている花から分離した花酵母なんてものもある。

さあ、自分で作るとしたらって考えると選択肢がありすぎて悩むねぇ。そこが面白いのかもしれないけど。

吟醸酒として有名なのは1801号だろうか。吟醸香を多く生産する酵母である。

酒母作り

米、米麹、水、(乳酸)を合わせて酒母を作っていく。主に二つの系統がある。

  • 生酛系

自然界に存在する硝酸還元菌や乳酸菌の力を借りて酵母が活躍しやすい環境を作ってから酵母を添加する方法。

  • 速醸酛系

乳酸と酵母を添加し、酵母が活躍しやすい環境を人間の手で作ってあげる方法。

どちらを選択するにせよ酸によりpH低下させ雑菌汚染しにくい環境を作り、酵母に頑張ってもらう形にはなる。

仕込み数日後から徐々に加温して、酵素の活性化や発酵を促し、酒母が完成したら使用時まで低温で保管しておく。

三段仕込み

雑菌汚染を防止しながらスケールアップさせていく方法である。

米、米麹、水を適宜加えていく。
初添、仲添、留添(添、仲、留)などのワードで言われてもわかりにくいと思うので下のように解釈してほしい。

酒母→2(~3)倍希釈→2(~3)倍希釈→2(~3)倍希釈

目安であるが大胆こんな感じ。よって最終数量を100%とすると10%程度の酒母を作ればよいことがわかる。酒母が少なくてよいということは酵母の割合を調節しやすいから雑菌汚染防止になるうえ、速醸酛系の場合乳酸の添加量が少なく済むから経費削減にもなる。

留の日からがわかりやすい作り分けの場面へと移る。

低温で長時間の仕込みを行う場合や、高温で短時間で仕込みを行う場合、醸造アルコールを添加する場合、アルコールが低い状態で次の段階に行く場合等、多種多様である。

大吟醸や純米大吟醸は酵母にひたすらストレスを与えて香気成分を出させるため、低温で発酵させる必要がある。

酵母は

  • 低温ストレス
  • 低栄養ストレス(先に話した内部メインの菌糸の米麹でゆっくりと糖を供給する)
  • 高アルコールストレス

などによって吟醸香を出す。一般的に吟醸酒の作りを吟醸造りというようだ。

いま私たちが香り高い酒を飲んでいられるのは酵母がキッツい環境で働かされた結果得られるものであると感謝をしながらいただくとしよう。

醸造アルコールを添加する場合は搾る直前に入れることが多い。醸造アルコールに対し嫌悪感を持つ人も一定数いるだろう。アル添酒なんてワードもあるくらいだ。訳の分からないアルコールで嵩増ししやがってと感じるのだろう。

しかし大吟醸や吟醸に関しては脂溶性香気成分を醸造アルコールに溶かし、アミノ酸やその他酸、糖の味を抑えるために加えていることがほとんどだ。香りメインで売っていきたい場合、アル添も悪くないものである。

上槽

酒の醪(もろみ)を酒と酒粕に分ける工程だ。

袋に入れてつるして自重でろ過する方法や、大規模なプレス機でじっくりと搾る方法などがある。
袋に詰めて自重でろ過するのは一部の酒であり、ほとんどがなにかしらの圧力をかけているものと考える。
「あらばしり」や「中汲み」、「責め」等は出てくる液体をどのタイミングで採取したかによって名前が変わってくる。

ちなみに酒税法でこの上槽を遠心分離機で行ってもよいそうだ。

澱引き、濾過(おり引き、ろ過)

上槽で取り切れなかった菌体や米を沈降させることを澱引きといい、その処理の後に濾過をする。

しかし、昨今無濾過商品が増えているそうだ。無濾過といえど上槽は行っているから酒税法的には清酒扱いだ。

その後

  • 火入れ

加熱し、殺菌、酵素失活をする。

  • 割水

ものによって清酒は20%を超えてしまうため、飲みやすいアルコール度数に落とす。

  • 貯蔵

木樽に入れたり、琺瑯に入れたりして保管するものであったり、熟成をさせるものであったりさまざまである。

  • 炭酸注入

スパークリング日本酒の需要が伸びているように思う。
酵母がアルコール発酵を行うとき、同時に炭酸も生産するが、それだけでなく炭酸を外部から注入することで、商品としての価値や一定性を確保している。

  • 麹菌

Aspergillus

  • 酵母

Saccharomyces属,Candida属,Hansenula属,Pichia属,Torulopsis属,Debaromyces

  • 乳酸菌

Lactobacillus,Leuconostoc

  • 硝酸還元菌

Pseudomonus属,Enterobacter属,Escherichia属,Achromobacter属,Paracolobactrum

ひとこと(ひとこと?)

今回調べていて酵母について深く興味を持った。
酵母が高ストレス下で働いているからこそ香り高い酒が飲めるというのは酵母に感謝しないとなと思った。
ウイスキーやビールでも同様に酵母を高ストレス下で働かせることによって良い香気成分を得ているそうで、人間の欲深さをまざまざと感じた。

文献

  • 小泉武夫,発酵食品学,株式会社講談社,2012
  • 北本勝ひこ,発酵醸造学,株式会社朝倉書店,2022
  • 北本勝ひこ,醸造の事典,株式会社朝倉書店,2021
  • 小泉武夫,角田潔和,鈴木昌治,酒学入門,株式会社講談社,1998
  • 竹田正久,清酒酵母の特性と生態,一般社団法人東京農業大学出版会,1996
  • 竹田正久,清酒酵母の特性は日本酒の文化,一般社団法人東京農業大学出版会,2000
  • 国税庁,”日本酒(清酒)に関するもの”,
    https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/sake/abc/abc-sake.htm(参照日2024/12/22)
  • 公益財団法人 日本醸造協会,”きょうかい酵母”,
    https://www.jozo.or.jp/yeast/(参照日2024/12/7)
  • 東京農大 花酵母研究会,
    http://www.hanakoubo.jp/index.html(参照日2024/12/7)
  • 学校法人 東京農業大学,”花酵母プリンセスミチコの清酒を皇室に献上いたしました”,
    https://www.nodai.ac.jp/news/article/23516/(参照日2024/12/7)
  • The Scotch Malt Whisky Society.,”ウイスキーの醗酵の泡について業界30年の専門家が解説【ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ】【ウイスキー概論13】”,
    https://smwsjapan.com/blog/contents/2021/10/25/whisky-fermentation-foam/(参照日2024/12/7)
タイトルとURLをコピーしました